透明交差点
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かすみ舟便かすみ舟便は、反転運河を往復する小さな舟の配達便である。運ぶのは箱や手紙だけではない。船頭は岸の会話、濡れた靴音、渡れなかった橋の景色を布袋に入れ、必要な対岸へ届ける。最後の回送バス最後の回送バスは、終電のあとに一度だけ走る「乗客を乗せない」バスである。車内には空席ではなく、昼間に間に合わなかった景色が座っている。運転手は停留所ごとにドアを開け、景色が降りるのを待つ。線路脇天文台線路脇天文台は、朝靄駅へ入る線路の脇に建つ小さな観測所である。ここで観測されるのは星ではなく、車窓から見えたはずのない光である。所員は列車の窓に残る指紋を数え、光がどの方向から現れたかを星図へ書き込む。朝靄駅朝靄駅は、遠景市に入る列車が最初に停まる終着駅である。ただしホームの表示板には到着時刻ではなく、その列車が町を「どれくらい思い出しているか」が記される。乗客は改札を出る前に、窓に映った自分の顔を一度だけ見送るのが慣例である。反転運河反転運河は、岸から眺めると水が上流へ向かっているように見える遠景市中央の運河である。実際の流れは潮と同じ向きだが、水面に映る建物だけが逆向きに進むため、初めて見る者は橋を渡る足を止める。雨音保存会雨音保存会は、遠景市に降る雨の音を採集し、季節ではなく屋根の材質ごとに分類する団体である。会員は小瓶に音を閉じ込めるのではなく、濡れた紙の重さとして記録する。紙を指で弾くと、その日の雨が短く再生される。
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