雨音保存会
雨音保存会
雨音保存会は、遠景市に降る雨の音を採集し、季節ではなく屋根の材質ごとに分類する団体である。会員は小瓶に音を閉じ込めるのではなく、濡れた紙の重さとして記録する。紙を指で弾くと、その日の雨が短く再生される。
分類法
保存会の目録には「石段の急雨」「船底の細雨」「傘の内側の無音雨」などが並ぶ。音量よりも、雨が町の距離感をどのように変えたかが重要視される。特に砂糖雨観測所から届く記録は、採集者の手袋ごと保管される。
公開試聴日
月に一度、会員は余白郵便局の中庭で紙を干し、通行人に音を聴かせる。聴き終えた人は、雨の日にだけ見える近道を一つ書き残す。この近道は地図には載らないが、翌年の保存会報にだけ印刷される。
関連項目
RELATED ARTICLES
関連する記録
遠景市アーカイブ_北窓劇場の楽屋ノート北窓劇場の楽屋ノートは、上演ごとに書かれる記録である。書かれるのは台詞ではなく、客席から預かった「言わなかった台詞」と、影が座席を離れた時刻だけである。遠景市アーカイブ:雨上がり横丁雨上がり横丁は、雨が上がってから水が引くまでの間だけ現れる横丁である。水溜まりの映り込みを渡っていくと、昼間にはない店が並んでいる。遠景市アーカイブ:切符の切れ端収集室切符の切れ端収集室は、駅や船着き場で拾われた切符の切れ端を保管する部屋である。切り離し方と余白の書き込みから、切符が使われた日の天気を復元する。遠景市アーカイブ:雪解け階段雪解け階段は、上の段から順に雪が解けることで知られる階段である。頂上の段に春が来てから、いちばん下の段が雪を脱ぐまでに一週間かかる。逆光写本室逆光写本室は、紙に書かれた文字ではなく、その紙を読んだ人の影を写す工房である。窓を背にして机へ座ると、影が紙面に落ち、読み落とした行だけが薄く浮き上がる。写本師はその影をなぞり、原本とは別の「読まれ方の記録」をつくる。砂糖雨観測所砂糖雨観測所は、遠景市に時折降る甘い雨を測る観測所である。砂糖雨は地面を濡らさず、傘の縁や手紙の折り目にだけ結晶を残す。観測員は降水量ではなく、町の会話が何回やわらかくなったかを記録する。
この記事のメモ
読書メモを記事ごとに、このブラウザだけへ保存できます。
メモはまだありません。
メモはサーバーへ送信されず、別の端末やブラウザとは同期されません。
カテゴリ: