反転運河

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反転運河

反転運河は、岸から眺めると水が上流へ向かっているように見える遠景市中央の運河である。実際の流れは潮と同じ向きだが、水面に映る建物だけが逆向きに進むため、初めて見る者は橋を渡る足を止める。

水面の規則

運河に物を落とすと、物体は沈むがその影だけはゆっくりと岸へ戻る。舟便の船頭は影の着く場所を見て荷物を渡す先を決める。名前を書いた荷札よりも、影の形のほうが宛先を正確に示すとされる。

沿岸の施設

北側には逆光写本室、南側には湖畔忘れ物市へ続く階段がある。夕方にはかすみ舟便の小舟が橋脚に寄り、対岸の音を荷として積む。

立ち止まる場所

運河の真ん中にある白い杭は「戻り杭」と呼ばれる。市民は別れ際、相手の名前ではなく次に会うときの天気を杭へ小声で告げる。水面がその言葉を反転させたときだけ、約束は町の外まで届く。

関連項目

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関連する記録

かすみ舟便かすみ舟便は、反転運河を往復する小さな舟の配達便である。運ぶのは箱や手紙だけではない。船頭は岸の会話、濡れた靴音、渡れなかった橋の景色を布袋に入れ、必要な対岸へ届ける。小夜見渡船場小夜見渡船場は、夜にしか看板が読めない反転運河の渡船場である。待合所の壁には窓がなく、代わりに水面の反射が小さな時刻表を作る。旅人は出発時刻を尋ねず、どのくらい待てるかを船頭へ伝える。透明交差点透明交差点は、信号機も横断歩道も見えない四差路である。道を渡ろうとする人が互いの気配を認めたときだけ、足元に薄い線が現れる。線は急ぐ人ほど短く、立ち止まる人ほど遠くまで伸びる。雨音保存会雨音保存会は、遠景市に降る雨の音を採集し、季節ではなく屋根の材質ごとに分類する団体である。会員は小瓶に音を閉じ込めるのではなく、濡れた紙の重さとして記録する。紙を指で弾くと、その日の雨が短く再生される。遠景市アーカイブ_物価遠景市の物価は常設の青階段市場ではルクス建てだが、水曜市や湖畔忘れ物市では価格の代わりに「説明できない品」や「失くした話」が支払いになる。配達料は待たせた時間で決まる。遠景市アーカイブ_北窓劇場の楽屋ノート北窓劇場の楽屋ノートは、上演ごとに書かれる記録である。書かれるのは台詞ではなく、客席から預かった「言わなかった台詞」と、影が座席を離れた時刻だけである。

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