線路脇天文台
線路脇天文台
線路脇天文台は、朝靄駅へ入る線路の脇に建つ小さな観測所である。ここで観測されるのは星ではなく、車窓から見えたはずのない光である。所員は列車の窓に残る指紋を数え、光がどの方向から現れたかを星図へ書き込む。
観測星図
星図は丸い紙ではなく、使用済みの乗車券をつなげた帯でできている。光の位置は駅名でなく、列車が一番静かになった地点で記録される。完成した帯は朝靄駅の待合室に吊るされ、旅人は自分が通った夜を探す。
予報
天文台が「近景の流星」を発表した翌日は、遠くの建物が急に手前へ寄ることがある。その朝は最後の回送バスが通常よりゆっくり走り、乗客のいない座席に景色を座らせる。
関連項目
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関連する記録
かすみ舟便かすみ舟便は、反転運河を往復する小さな舟の配達便である。運ぶのは箱や手紙だけではない。船頭は岸の会話、濡れた靴音、渡れなかった橋の景色を布袋に入れ、必要な対岸へ届ける。砂糖雨観測所砂糖雨観測所は、遠景市に時折降る甘い雨を測る観測所である。砂糖雨は地面を濡らさず、傘の縁や手紙の折り目にだけ結晶を残す。観測員は降水量ではなく、町の会話が何回やわらかくなったかを記録する。最後の回送バス最後の回送バスは、終電のあとに一度だけ走る「乗客を乗せない」バスである。車内には空席ではなく、昼間に間に合わなかった景色が座っている。運転手は停留所ごとにドアを開け、景色が降りるのを待つ。朝靄駅朝靄駅は、遠景市に入る列車が最初に停まる終着駅である。ただしホームの表示板には到着時刻ではなく、その列車が町を「どれくらい思い出しているか」が記される。乗客は改札を出る前に、窓に映った自分の顔を一度だけ見送るのが慣例である。透明交差点透明交差点は、信号機も横断歩道も見えない四差路である。道を渡ろうとする人が互いの気配を認めたときだけ、足元に薄い線が現れる。線は急ぐ人ほど短く、立ち止まる人ほど遠くまで伸びる。雨音保存会雨音保存会は、遠景市に降る雨の音を採集し、季節ではなく屋根の材質ごとに分類する団体である。会員は小瓶に音を閉じ込めるのではなく、濡れた紙の重さとして記録する。紙を指で弾くと、その日の雨が短く再生される。
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