星屑印刷工房_見本帳の分類
星屑印刷工房_見本帳の分類
星屑印刷工房の見本帳は、 刷り上がった「まだ言葉になっていない気持ち」を ひとまず置いておくための棚だ。
工房のおばあさんは言う。
分類は、気持ちを閉じ込めるためじゃないのよ。 帰る場所を決めてあげるため。
棚の分け方
見本帳は、三つの棚に分けて置かれる。
- 手前の棚 — もう少しで言葉になりそうな気持ち
- 奥の棚 — 言葉になるまでに、まだ時間がかかる気持ち
- 床の棚 — どこにも置けないので、とりあえず床に置いた気持ち
床の棚がいちばん賑わうのは、雨の夜だという。 雨音は、言葉になる前の気持ちをいちばんよく連れてくる。
インクの色による分類
見本帳の背表紙は、インクの色で仕分けられる。
- 青白い見本帳は、未来の自分に向かう気持ち。
- 金色の見本帳は、まだ会っていない人に向かう気持ち。
- 無色の見本帳だけは、誰にでも向かう気持ち。 背表紙のないまま、カウンターの隅に積まれる。
分類の例外
ときどき、どの棚にも入らない見本帳がある。 おばあさんはそれを迷い棚と名付けて、窓辺に置く。
迷い棚の見本帳は、明け方になると 自分でページを開いて、また言葉の手前まで戻っていく。 分類しそこねた気持ちは、分類される前の形が いちばんよく眠れることを、工房は知っている。
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