雨の切符
雨の切符は、雨が降る日のみ改札で発行される、行き先の書かれていない切符。
駅員は傘の雫を数えて切符を渡す。切符の裏面は白紙だが、持ち主が『今日はどこへ帰りたいか』を決めると、青い文字でホーム番号が浮かぶ。
雨が強く降る前に持つ切符と、雨の音を聞いてから持つ切符とでは、浮かび上がる番号が違う。心が決まらず、切符を持ったまま夜を越すと、翌朝には文字のないまま紙の雲になって駅の天井へ吸い込まれていく。
この切符が案内するのは遠い街ではなく、忘れていた寄り道である。切符の余白には、寄り道のための一行だけが残される。改札を出る前に、その寄り道をひとつ選んでおくと、帰り道の雨音が優しく聞こえる。
記録
- 有効なのは雨音が聞こえる間だけ。
- 改札を出ると切符は水に溶け、手には目的地の匂いだけが残る。
- 一度に二枚持つとどちらかの雨を決めてしまうため、一枚だけにする。
- 切符に残った青い字は、次の寄り道の地図として記憶に残る。
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