鉛筆山脈の地質調査報告
すべて黒鉛で構成された山脈の鉱物学的特徴と採掘史。
調査の経緯
鉛筆山脈は、削りかすのような雲を頂く、紙の上にだけ現れる山脈である。登山者は鉛筆を一本持って出発し、歩いた稜線を地図に書き足す。書かなかった道は夕方には消えるため、山の全景を知る者はおらず、調査もまた、書き足した道をたどる形でしか進められない。
本報告は、山腹の黒鉛鉱脈と麓の茶屋を結ぶ道を往復する範囲で行われた踏査の記録である。調査は紙の上でしか成立しないため、全ての観測は地図への書き込みとともに記録された。
地質の特徴
黒鉛鉱脈
山腹には黒鉛の鉱脈があり、採った粉は手紙の下書きにだけ使われる。粉は濃く滑らかで、書き直しの跡がほとんど残らない。麓の茶屋では、この粉を混ぜた飲み物が登山客に振る舞われるが、調査の結果、粉自体に味はなく、飲み物の色が深くなるだけであることが確かめられた。
鉱脈の走向は地図に書き足した道と一致し、道を描き足すほど鉱脈が広がって見える。このことから、鉱脈は山そのものではなく「描かれた山の線」に沿って存在する可能性が指摘されている。
削りかす層
山頂部は細かい削りかすの層で覆われ、踏むと柔らかく沈む。層の厚さは調査日ごとに違い、前日に多くの登山者が歩いた日ほど薄い。削りかすは風で舞い、山頂の削りかす雲を形成する。雲の色は鉛筆の芯の濃さに似て、夜になるとほとんど見えなくなる。
標高の測定
この山では標高をメートルで表さず、必要な消しゴムの回数で表す。調査隊が山頂まで歩いて消しゴムを使った回数は、往路で十二回、復路で九回だった。消しゴムの回数は日によって変わり、雨の日は紙が柔らかくなって回数が増える。
鉱物の利用
- 手紙の下書き: 採った粉は正式な手紙に使われず、下書きにだけ用いられる。失敗した下書きは消され、次の下書きのための紙へ戻る。
- 砂糖の地図の原料: 役目を終えた砂糖の地図は砕かれ、登山者の飲み物を甘くする。調査では、この甘さに黒鉛の粉がわずかに混ざることも確認された。
- 星屑切手市への出荷: 濃い色の粉は、星屑切手市のインクの代用品として時折取引される。ただし、星屑の光を再現できないため、取引量は少ない。
山頂の標識
山頂の標識には『書き直してよい』とだけ刻まれている。調査隊が標識の裏面を確かめたところ、そこには多くの登山者が書き足した「書き直した道の数」が薄く刻まれていた。最も古い刻みは読み取れないほど消えかかっており、この山で何度書き直しが行われたかを知る者は、標識自身も含めていない。
調査の限界
- 調査範囲は麓の茶屋から山頂までであり、書かなかった道の分は記録できない。
- 夕方には書き足した道が薄れ、翌日の調査は前日の地図を頼りに再開される。
- 山の全景を知る者はおらず、本報告もまた、その一部の道だけを記したものである。
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