記録者の肖像_旧港の棚卸し係
記録者の肖像_旧港の棚卸し係
記録者の肖像_旧港の棚卸し係は、旧港記憶倉庫で棚卸しを担当した者の職務を記録した記事である。氏名・生没・在職期間はすべて不詳であり、本記事は個人ではなく一つの職務がやっていた作業として記述する。薄明前期の記録文化が名もなき職人によって作られたことを示す、代表的な資料群の一部である。
職務
| 作業 | 内容 | 記録に残った年 |
|---|---|---|
| 数え | 区分棚ごとに貨物の有無を見る | 星環709年 |
| 別記 | あるはずのない区分にあった貨物を注記する | 星環709年 |
| 区分 | 荷主が戻らない貨物を「置き去り記憶」へ移す | 星環715年 |
| 開閉 | 開けた日と時刻を帳面へ記す | 星環727年 |
| 一覧 | 行方不明の記憶を名簿化する | 星環733年 |
| 減衰 | 内容が薄れた貨物を見本帳へ照合する | 星環787年 |
棚卸しは年の終わりに行われる。回数は記録によって異なり、年一回が通例だが、星環787年には二度の棚卸しが記される。この回は劣化した貨物の扱いを巡って追加されたものと考えられる(説)。
作業の手順
- 潮の合わせる日を選び、倉庫を開ける。
- 番号順に見る。とばさない。空番も「空」として読む。
- 貨物を取り出さない。影の向きと重さだけで状態を見る。
- 分類見本帳を開き、当てはまらないものを左欄へ書く。
- 終わりに、今回数えられなかった件数を記す。
- 帳面を閉じ、鍵を港の帳場へ返す。
四番目と五番目がこの職務の特徴である。棚卸し係の報告は「何がどこにあるか」より「何が数えられなかったか」を先に記す。この順序は、のち薄明圏アーカイブ_漂着物分類および星環842年_第一回余白監査の書式に共通する。
使用した道具
| 道具 | 説明 |
|---|---|
| 帳面 | 港の帳場と同型。用紙の切れ端を継ぎ足して使う |
| 見本帳 | 薄明圏アーカイブ_記憶貨物分類見本帳。携えて歩き、頁を剥がして貼る |
| 黒布 | 光を遮り、蝋の艶で貨物の位置を確認する |
| 潮見表 | 薄明圏アーカイブ_時間位相潮汐表。倉庫を開けられる日を決める |
記録の残らない理由
棚卸し係の記述が個人名を持たないのは、倉庫が公設であり、帳面の書式に記入欄がなかったためである。ただし例外として、星環787年の棚卸し帳の末尾に「数え足りぬは我のせいに非ず」という一句が残り、これが倉庫の記録に見られる唯一の一人称である。この句の解釈を巡り、責任回避と職務の限界の告白という二つの読みが並ぶ(説)。
後代
星環800年代以降、棚卸しの業務は共同記録館へ移る。星環891年の星環891年_薄明圏の棚卸しでは、棚卸し係の職務が「数えられた件数」ではなく「開けられたことがない区分の数」を報告する形式へ変わり、この職務の原則が保持されたことが確認できる。星環893年以降は星環893年_長期保留棚の運用が棚卸しを再確認に置き換えた。
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