雨粒観測所
街のはずれに、雨の日にしか開かない観測所がある。
研究員たちは空ではなく、傘に落ちる音を測っている。 「ぽつ」「さら」「どっ」といった擬音を、 古い楽譜みたいな五線紙に書き込んでいくのだ。
ある日、観測記録の最後に見慣れない音が現れた。
「ただいま」
それは雨音の形をしていたけれど、たしかに言葉だった。
それ以来、観測所では帰る場所を見失った人が来るたびに、 その人専用の雨を降らせる実験をしている。
家の匂いに似た雨。 湯気の立つ味噌汁みたいな雨。 子どものころの廊下みたいな雨。
帰り道がわからない夜には、 天気予報より先に、自分の心に聞いてみる。
今日は、どんな雨が降れば帰れますか。
RELATED ARTICLES
関連する記録
0時の温室植物園の裏手にあるガラス温室は、日付が変わる瞬間だけ鍵が開く。月光水族館月に一度、満月の夜だけ開館する水族館がある。交差創作_統一通貨ルクスと各世界の物価感覚統一通貨ルクスの導入に伴い、マリオカノン・MarioPolitics・アカサティア・夜色世界などの各世界線で発生した物価感覚や価値観の摩擦を記録した交差創作。夜間回廊文庫星環暦で25時から26時の間にだけ開く回廊状の文庫。二十五の棚に未返却・欠番・余白の本を収め、共同記録館と連携して保留の記録を預かる施設。夜行列車図書館終電の後、だれもいないはずのホームに一本だけ、行き先表示のない列車が滑り込んでくる。夜色世界夜色世界は、夜の公共施設が織りなす都市幻想の世界線である。終電の後に滑り込む列車図書館、満月の夜だけ開く水族館、雨の日にしか開かない観測所——夜の時間だけが、異界とこの世界を結ぶ。
この記事のメモ
読書メモを記事ごとに、このブラウザだけへ保存できます。
メモはまだありません。
メモはサーバーへ送信されず、別の端末やブラウザとは同期されません。
カテゴリ: