夜行列車図書館
終電の後、だれもいないはずのホームに一本だけ、行き先表示のない列車が滑り込んでくる。
ドアが開くと、車内は座席ではなく本棚で埋め尽くされていた。吊り革の代わりにしおりが垂れ、 窓の外には夜景ではなく、誰かの記憶みたいな断片が流れていく。
車掌は静かに言う。
こちらは「読み終えられなかった物語」を集める夜行です。
ぼくは一冊だけ、背表紙のない本を手に取った。ページをめくるたびに、昨日言えなかった言葉が現れ、 次のページではまだ会っていない人の笑い声が聞こえた。
終点に着くころ、その本は白紙に戻っていた。代わりに、ぼくのポケットには小さな紙片が入っている。
「つづきは、あなたが書いてください」
ホームに降りると、もう列車の姿はない。 朝の始発案内だけが、いつも通りの声で響いていた。
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月光水族館月に一度、満月の夜だけ開館する水族館がある。0時の温室植物園の裏手にあるガラス温室は、日付が変わる瞬間だけ鍵が開く。雨粒観測所街のはずれに、雨の日にしか開かない観測所がある。交差創作_統一通貨ルクスと各世界の物価感覚統一通貨ルクスの導入に伴い、マリオカノン・MarioPolitics・アカサティア・夜色世界などの各世界線で発生した物価感覚や価値観の摩擦を記録した交差創作。夜間回廊文庫星環暦で25時から26時の間にだけ開く回廊状の文庫。二十五の棚に未返却・欠番・余白の本を収め、共同記録館と連携して保留の記録を預かる施設。夜色世界夜色世界は、夜の公共施設が織りなす都市幻想の世界線である。終電の後に滑り込む列車図書館、満月の夜だけ開く水族館、雨の日にしか開かない観測所——夜の時間だけが、異界とこの世界を結ぶ。
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