白紙灯祭
白紙灯祭
白紙灯祭は、文字を書かない紙灯籠を町じゅうに灯す遠景市の祭礼である。灯籠には願い事も名前も書かない。書かなかったことが誰かの歩く余地になるという考えから、紙の白さそのものを水辺へ運ぶ。
準備
逆光写本室では、前年に残った影の記録を確認し、灯籠の紙を選ぶ。余白郵便局は宛先のない空白を集め、雨音保存会は灯に添える小さな雨の音を決める。風鈴橋からは鈴が外され、祭りの間だけ町の方向を示す音が消える。
当夜
市民は一人一つの灯籠を持ち、最初に迷った場所へ置く。灯が水面に映ったら、かすみ舟便がゆっくりと回収して運河の中央へ集める。灯が消えた後も、見送りたい言葉だけが少し遅れて岸に残るという。
関連項目
RELATED ARTICLES
関連する記録
空席博覧会空席博覧会は、誰も座っていない椅子だけを集めて開かれる展示会である。椅子には持ち主の名前を付けず、最後に立ち上がったときの床のきしみを添える。来場者は展示を見ながら、自分が座らないでおく席を一つ選ぶ。北窓劇場北窓劇場は、舞台の北側に大きな窓だけがある小劇場である。昼間の公演では観客の影が舞台へ伸び、役者はその影を相手役として演じる。脚本には台詞のほか、影が座席を離れるタイミングも書き込まれる。かすみ舟便かすみ舟便は、反転運河を往復する小さな舟の配達便である。運ぶのは箱や手紙だけではない。船頭は岸の会話、濡れた靴音、渡れなかった橋の景色を布袋に入れ、必要な対岸へ届ける。雨音保存会雨音保存会は、遠景市に降る雨の音を採集し、季節ではなく屋根の材質ごとに分類する団体である。会員は小瓶に音を閉じ込めるのではなく、濡れた紙の重さとして記録する。紙を指で弾くと、その日の雨が短く再生される。遠景市アーカイブ_物価遠景市の物価は常設の青階段市場ではルクス建てだが、水曜市や湖畔忘れ物市では価格の代わりに「説明できない品」や「失くした話」が支払いになる。配達料は待たせた時間で決まる。遠景市アーカイブ_北窓劇場の楽屋ノート北窓劇場の楽屋ノートは、上演ごとに書かれる記録である。書かれるのは台詞ではなく、客席から預かった「言わなかった台詞」と、影が座席を離れた時刻だけである。
この記事のメモ
読書メモを記事ごとに、このブラウザだけへ保存できます。
メモはまだありません。
メモはサーバーへ送信されず、別の端末やブラウザとは同期されません。
カテゴリ: