交差創作_夜行列車と風の放送室

出典: OpenMarioWiki — 自由な創作百科事典

夜行列車図書館の最後尾には、時々だけ開く小さな放送室がある。 それは普段は物置のように静かだが、特定の夜——月の光がレールの錆を白く染める夜にだけ、赤いランプが点灯する。

そこにいるのは旅路ラジオのパーソナリティで、 「今夜の電波は、本の余白を通って届きます」と穏やかに笑った。 彼の傍らには、風のピアノ室から運ばれた古いアップライトピアノが置かれ、時折、風が鍵盤を叩くような即興演奏が混じる。

列車の窓の外を流れるのは景色ではなく、誰かの読みかけの文章だ。 読み切れなかった一文、言えなかった結末が、アンテナに引っかかって、柔らかな音声になる。

「次のお便りです。差出人は雲間写真館の現像係さん。 “古い写真に写るホーム番号が、今夜だけ実在する気がします。そこにはきらり交差点で別れたはずの誰かが立っているようで”」

パーソナリティは、しおりを挟むようにマイクを切り替え、藤井風のメロディを口ずさむ。

車掌はページの角を折るみたいに汽笛を鳴らし、 列車は夢見ヶ丘バス停に似た、しかし誰も降りたことのない停留所へ滑り込む。

降りる人は、ひとりずつ胸ポケットから短い詩を出して、 改札の代わりに設置されたマイクへ吹き込んだ。 それは反響区の夜明けを待つ人々への、匿名の励ましだった。

その声は、翌朝の街角で信号待ちをする誰かの耳に、不意に届く。 届いた人は理由もなく、少しだけ丁寧に歩くようになる。 世界が、ほんの少しだけ「満ちてゆく」のを感じながら。

この列車に時刻表はない。 ただ、いい言葉をなくした夜だけ、 放送室の赤いランプが先に点るのだ。

藤井風 | 夜行列車図書館 | 旅路ラジオ

RELATED ARTICLES

関連する記録

交差創作_0時の温室と旅路ラジオ深夜の温室で、旅路ラジオの電波が植物の成長に影響を与えたという観測記録。交差創作_BOOK_OF_OZAKIと逆光書簡集地下録音と逆光の文書の形式類似性を検討した記録。交差創作_ダシウドニズムと人民進化二つの思想を比較対照した学術的検討(説)。交差創作_だしうどん使節とアカサティア市電だしうどんの使節がアカサティア・シティの市電に乗車した記録。交差創作_ラーメンシュギと統一通貨MARIO LIST Xの記録者ラーメンシュギが統一通貨ルクスの価値を観測した記録。交差創作_雨粒観測所と風のピアノ室雨粒の音を聴く施設と、風の音を聴く施設が、ある夜だけ同じ音を観測した記録。

ARTICLE RATING

この記事は役に立ちましたか?

まだ評価はありません

読み込み中…

この記事のメモ

読書メモを記事ごとに、このブラウザだけへ保存できます。

0 / 5,000文字

メモはまだありません。

メモはサーバーへ送信されず、別の端末やブラウザとは同期されません。