交差創作_雨粒観測所と風のピアノ室
雨粒観測所の観測員は、毎晩ガラス板に当たる雨の音を記録している。 その音は粒ごとに違い、同じ雨が二度と 同じ音を奏でないことを、彼は十年かけて知った。
ある夜、観測員の耳に届いた雨音が、普段と違った。 一粒一粒が、鍵盤の音を模しているように聞こえた。
彼は窓を開けた。 雨は外からではなく、部屋の中で降っていた。 天井付近に、透明なピアノの蓋が見えた。
それは風のピアノ室から運ばれてきたアップライトピアノで、 風が鍵盤を押すたびに、雨粒が弦を叩くような音がした。
「この部屋だけ、雨が音楽になるんですか」と観測員が言うと、 ピアノの側から誰とも分からない声が返してきた。 「音楽が雨になることもあるんですよ」
翌朝、観測員は日誌にこう記した。 「星環884年、雨と風が同じ曲を奏でた。曲名は不詳。」
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