薄明圏アーカイブ:灰青運河
灰青運河は、ネオンプリマ旧市街を東西に横切る全長十一キロメートルの人工水路である。水面が空より半刻遅れて色を変えるため、住民は運河を見ることで少し前の天候を知ることができる。
構造
運河は「一の水門」から「九の水門」まで九区画に分かれる。奇数区画は生活物資、偶数区画は記録媒体と記憶貨物の運搬に使われる。中央の五の水門だけは両方を扱い、薄明圏アーカイブ_浮標市場が開かれる日は終日開放される。
運河を渡る橋は二十二本あるが、地図に載るのは二十一本である。残る一本「遅刻橋」は、水面の時間差が一定値を超えたときだけ現れる。橋を渡ると約七分を失う代わりに、対岸へ最短で移動できる。
水路交通
- 灰舟:住民用の小型渡し船
- 青函:封印済みの記憶貨物を運ぶ無人船
- 庭舟:薄明圏アーカイブ_潮汐庭師が水草の手入れに使う作業船
- 環状便:市電の運休時に走る代替船
すべての船は船首に現在時と水面時の二つの時計を掲げる。
水面記録
薄明圏アーカイブ_渡り書記組合は毎晩、運河の色を文章で記録する。写真だけでは時間差そのものを保存できないためである。この記録は薄明圏アーカイブ_時間位相潮汐表の補正にも使われる。
文化
住民が「運河はまだ晴れている」と言うとき、それは天候ではなく、過ぎた出来事をもう少し覚えていたいという意味を持つ。薄明圏アーカイブ_逆光書簡集には、この言い回しを使った手紙が多く収録されている。
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