湖底映画館
湖底映画館は、水を通して映像を見る、湖の底の小さな映画館。
スクリーンは水面で、客席は防水の古い劇場椅子だ。映像は波の揺れで少し歪むため、同じ作品でも見る日によって結末の表情が変わり、観客はそれを直すことも早めることもできない。
上映されるのは淡い靄の短編ばかりだ。湖岸の竹筒に言葉を吹き込むと、翌日にはその物語の型をとどめた水の影が引き下ろされ、水面の竿を滑るようにして登場する。入口は湖の底に開いた一つの穴で、観客は足音を忍ばせ、壁に手を添えて曲がり角を進む。
上映前には静かな遊園地から届く灯りが客席を照らす。初めての客は、その灯りで目を慣らしてから席に着く。観客は感想を言葉でなく、帰り道の足取りで残すため、足取りの軽い日はあとで見ると満席だったことが分かる。
記録
- ポップコーンの代わりに、泡が弾ける飴を売る。
- 雨の日は湖面が忙しいため、短編だけを上映する。
- 湖面の波が高すぎる日は休館し、その日の作品は翌日へ持ち越される。
- 持ち帰りを許される小石は、同じ作品をもう一度見に来た人だけが拾える。
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