影の市場
影の市場は、日中の物の影だけを持ち寄り、夕方に交換する市場。
大きな植木鉢の影、使い込んだ椅子の影、誰かと並んだときだけ生まれる影まで並ぶ。物そのものを失わずに気分を変えたい人が、気軽に影を選ぶ。
交換が済んだ影は、持ち帰って窓辺で一晩干す。翌朝、薄い紙のように曲がった影を手のひらでならし、持ち主の歩幅に合わせるのが丁寧な使い方だとされている。
影は夜になると持ち主のそばへ戻るので、交換は一日限りだ。市場の帳簿は記憶を編む織機が毎晩、黒い糸に写し取る。写し取られた影は忘れられても、翌年同じ日にもう一度市場を開けば、同じ質の影がまた並ぶ。
記録
- 値札には値段ではなく、影が似合う天気を書く。
- 雲が厚い日は屋根の下で、小さな影だけを扱う。
- 同じ影を二度売ることはなく、売れ残った影は夕焼けの色のまま溶けて消える。
- 影を失った日は、次の開市まで見本の影を借りて過ごす。
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