夢の翻訳機の取扱説明書改訂版
他者の夢をテキスト化する機器のトラブルシューティング。
機械の概要
夢の翻訳機は、目覚めた直後の夢を、意味ではなく手触りとして別の言葉へ移す装置である。機械に話しかけると、夢の内容は『冷たい階段』『遠くの橙色』のような短い句に置き換わる。正解を求めない翻訳なので、同じ夢でも日によって出力が異なる。
本稿は、その取扱説明書の改訂版である。初版からの変更点は、各項目に「改訂」の注記を添えて記す。
基本的な使い方
- 目覚めた直後に、機械の前で夢を話す。
- 出力された短い句を、一週間だけ保管する。
- 期限を過ぎた句は紙飛行機になり、窓から放つ。
話すときの注意
- 夢は意味ではなく手触りとして話すこと。「怖かった」ではなく「冷たい階段だった」と。
- 笑いながら話すと、出力が明るい句になる。
- 泣きながら話すと、出力は水に濡れたように滲むが、それも記録として残る。
保管と出力
- 翻訳された句は一週間だけ保管できる。期限を過ぎると紙飛行機になる。
- 出力紙は水に濡れると、元の夢の色に戻る。色は再び翻訳できない。
- 旅の出発前には、遠回り専門旅行社がこの句を一つだけ行き先のヒントにする。ヒントに選ばれた句は、そのままパンフレットの余白に貼られる。
故障と対処
機械が夢を先回りする
装置は眠る前には使えない。眠る前に使うと、機械がその夜の夢を先回りしてしまい、翌朝の出力が空になる。対処法はなく、その夜の夢は機械なしで話すしかない。
出力が同じ句になる
同じ句が続くときは、夢を話す場所を変えると直ることが多い。窓辺、玄関、階段の途中など、場所によって機械の聞き取り方が変わる。
紙飛行機が戻ってくる
放った紙飛行機が戻ってくる場合は、その句がまだ必要である印。期限を無視してもう一週間保管できるが、二度目の放流は必ず成功する。
改訂の記録
- 初版では「夢は朝一番に話すこと」とあったが、改訂版では「話せるようになったときに話すこと」に改められた。
- 初版で「翻訳の正しさ」という言葉が使われていたが、正解を求めない翻訳であるため、改訂版では削除された。
- 改訂版では、季節を貸す店で借りた季節の空気を吸ってから話すと、出力に季節の匂いが混ざることが追記された。
関連項目
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