夜明けの鍵屋
夜明けの鍵屋は、夜が明ける直前だけ営業し、まだ開けたことのない扉の鍵を作る店。
客は扉の場所を説明しなくてよい。鍵屋は声の迷い、袖口のほこり、ポケットの中の紙片から、必要な鍵穴の形を想像する。理由の言葉を聞き終えるまでは、鍵を渡さないという決まりだ。
注文のない夜は、鍵屋は明日の朝に開く自分の扉の鍵を鍛える。そうして作られた鍵は、必要とする人が気づかないうちに届くと噂されている。合わなかった鍵は壊れたのではなく、まだ早い鍵として布に包んで棚へ並べる。
完成した鍵はすぐには使えず、朝の光を一度浴びせてから渡される。朝の光を浴びた鍵は、開ける扉より開けない扉の方が多いことを、自分で静かに覚えてしまう。鍵の切りくずは静かな遊園地の回転木馬の飾りに再利用される。
記録
- 鍵には番号でなく、開けた後に見たい景色を刻む。
- 合わなかった鍵は壊れたのではなく、まだ早い鍵として保管される。
- 店の灯火は、一番星が消える時刻までしか燃えていない。
- 渡した鍵を開けそびれても、次の夜明けにまた寄ればいい。
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