深夜の標本室
深夜の標本室は、午前零時から夜明けまでだけ開く、消えかけた気配を収める標本室。
展示ケースには、言いそびれた返事の余韻、閉店後の店先の匂い、誰もいない廊下の足音がラベル付きで保存されている。見学者は音を立てず、ケースの前で一度だけ深呼吸をする。
標本は採集されるのではなく、自ら入口に現れる。いちばん新しいケースは常に入口のそばにあり、息の音をひとつも落とさなかった見学者だけが、その中身を目にすることができる。
期限を迎えた標本は砂糖の地図の紙へ溶け込み、知らない街の甘い道筋になる。同じ気配は一度しか採れないため、二度目はケースの代わりに、見学者の記憶の中だけに残る。
記録
- ラベルには採集地ではなく『最後に気づいた人』が記される。
- 展示室の時計は、見学者のまばたきの間だけ止まる。
- 同じ気配を二度採ることはなく、二度目は写真だけが残る。
- 持ち帰りたい気配は、ひとつだけを選ばないとすべて薄くなる。
関連記事
RELATED ARTICLES
関連する記録
この記事のメモ
読書メモを記事ごとに、このブラウザだけへ保存できます。
メモはまだありません。
メモはサーバーへ送信されず、別の端末やブラウザとは同期されません。