遠回り専門旅行社のパンフレット
最短距離をあえて外す奇妙な旅行プランの案内書。
表紙
パンフレットの表紙には、地図と予定表が並べて描かれている。どちらにも線は引かれておらず、中央に一行だけの文字がある。
迷わない遠回りを、お届けします。
遠回り専門旅行社は、目的地まで最短で着かない旅だけを設計する旅行社である。このパンフレットもまた、読む人の寄り道を前提に作られている。ページ順に読まれることは想定されておらず、どこから開いてもよい。
旅の設計
寄り道の選び方
案内人は有名な場所より、曲がり角のパン屋、午後だけ開く橋、風の匂いが変わる坂を地図に記す。パンフレットの見開きには、そうした寄り道の候補が「遠回り例」として紹介されている。
- 曲がり角のパン屋: 角を曲がるたびに焼き上がりの匂いが変わる。
- 午後だけ開く橋: 午前は川の上に影だけが架かる。
- 風の匂いが変わる坂: 上る途中で、町の匂いが海の匂いに変わる。
これらは例示であり、実際の旅では、その日その日の風や時間帯で寄り道が選ばれる。
渡されるもの
旅行者には予定表の代わりに、空白の多いノートが渡される。パンフレットには、このノートの使い方について次のように書かれている。
予定は書かないでください。 気づいたことだけを、気づいた場所に書いてください。
また、出発前に輪郭のない肖像画の余白を一枚受け取り、旅の間に見つけたものを書き込む。帰着後、その余白は次の誰かの寄り道の種になる。
料金と支払い
- 基本料金は、目的地までの最短距離に応じて決まる。ただし料金は距離が短いほど高い。
- 支払いは時間で行う。帰ってきた時刻を一分でも早めると、その分だけ次の旅の余白が減る。
- 急ぐ理由がある人には、旅の予約を翌日にするよう勧められる。急いでいる日に遠回りをすると、迷いが旅に混ざるためである。
注意書き
パンフレットの最終ページには、小さな文字で注意が書かれている。
- この旅行社が案内するのは、道に迷うことではなく、道を選び直すことです。
- 旅の途中で夢の翻訳機の紙飛行機を見かけたら、行き先のヒントとして拾ってください。
- 宿泊を伴う旅の場合は、砂時計ホテルの利用が推奨されています。砂の落ちる速さで、翌日の気分が変わります。
- 旅の終わりには、帰ろう坂道を通って帰ることをお勧めします。帰り道の分だけ、旅がきれいに締まります。
余白の使い方
パンフレットの余白は、旅の記録を書き込むための場所ではない。むしろ、何も書かないで持ち帰り、次の旅の出発前に、前回の旅の余白を眺めるための場所である。何も書かれていないページは、次の寄り道が入るための空白として、また次の旅行者へ受け継がれる。
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