砂時計ホテルの忘れ物台帳_第二巻
滞在者が砂と共に忘れていった記憶の断片の目録。
台帳の位置づけ
砂時計ホテルは、駅前の路地にある地図に載らない小さなホテルである。フロントの看板には「一泊=砂ひと粒ぶんの未来」と書かれ、チェックインすると、宿泊客にはそれぞれ砂時計が渡される。落ちる砂の量で、翌朝の気分が変わる仕組みらしい。
忘れ物台帳は、チェックアウトの際にホテルへ残されていった品々を記録した目録である。第一巻は開業当初の分、第二巻はその後、砂時計の砂が一定量になるまでに集まった分が記されている。宿泊客の多くは、自分が何を忘れたかを翌日には思い出せない。
収録されている忘れ物(抜粋)
迷いの残った砂
一泊の間に落ちなかった砂が、瓶ごと残されることがある。「砂が落ちる前に朝が来た」とメモが添えられており、フロントでは、急がなくていい人の砂として保管されている。
書かれていない手紙
切手も住所もないまま、封筒だけが残された。中身は空で、封筒の裏に「明日書く」とだけ鉛筆で書かれている。台帳には「おそらく、今も書いている途中」と記されている。
見覚えのないメモ
チェックアウト時に手帳の余白へ現れる、見覚えのないメモが持ち帰られることもあれば、そのまま置き忘れられることもある。台帳に残された一枚には、こう書かれていた。
焦らず進むことも、前進だ。
逆さの砂時計
上下を逆さまにして忘れられた砂時計。砂は上に溜まったまま止まっている。フロントの支配人は、これを「時間を返し忘れた客」の忘れ物としている。
朝焼けの色見本
夜景の代わりに窓に浮かんだ朝焼けの色を、紙に塗って持ち帰るつもりだったとみられる色見本。色の名前だけが、台帳にこう書かれている。「まだ名前のない、朝の色」。
返却の方法
忘れ物の返却は、砂時計の砂が一粒落ちるのを待ってから行われる。持ち主が思い出さない限り砂は落ちず、返却は「本人が思い出すまで」が原則である。藤井風世界では、忘れ物を探す人は遠回り専門旅行社の余白にその名前を書いて旅立つことが多い。
巻末の記述
第二巻の巻末には、フロントの支配人による手書きの一文がある。
ここに残るものは、忘れられたのではなく、 預けられたのだと思います。 客は何かを忘れて帰るたびに、何かを持ち帰っているのです。
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