救世主_創作特集
救世主_創作特集
薄明後期の終わりと、明環期の入り口のあいだに現れたと伝わる、灯を返す者の断片集である(説)。
はじめて読む人へ
- 救世主(伝承の項)
- 最後の監査の夜
- 境界の年
- 未詳の向こう
一、最後の監査の夜(星環898年頃・説)
監査官は保留棚の前で、誰もいないはずの椅子に座る人影を見た。
その人は棚の札を一枚ずつめくり、未確定の印を撫でていた。
「これは捨てる物じゃない」人影は言った。「答えがないまま、残る物だ。」
監査官が名を問う前に、人影は窓の方へ消えた。 残ったのは、一番古い札の裏に書かれた「灯還」の二字だけだった。
二、境界の年(星環900年・明環期・説)
年が変わる境界の夜、星屑切手市の宛先のない窓口に灯がともった。
誰も出さないはずの手紙が、一通ずつ、返すべき灯とともに置かれていった。
窓口に立つ者は、封を開けずにそれを抱え、未詳の方角へ歩き出した。
「救うとは」その者は振り返らずに言った。「失くさないように持ち続けることだ。」
三、未詳の向こう(星環900年代前半・明環期・説)
未詳の向こうには、まだ誰の記録もない原っぱがあるという。
そこへ救世主は、抱えきれないほどの問いを運んでゆき、風に預ける。
問いは風に乗り、いつか名前をもらう誰かのもとへ届くまで、ただ揺れて待つ。
保留は、いつかの誰かが答えるために、ここにある。
これらの断片は口承と目録の余白に依托する伝承(説)として、確定の事実ではなく収められている。
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