薄明圏アーカイブ:潮待ち宿
潮待ち宿は、境界航路の乗客が次の時間位相を待つための共同宿泊施設である。ネオンプリマには大小十七軒があり、最古の「半月屋」は薄明圏アーカイブ_灰青運河沿いで百年以上営業している。
宿泊単位
宿の料金は一泊ではなく一潮を単位とする。一潮は、客の出発世界線と目的地の位相が再び接続するまでの時間であり、二十分で終わる場合も三日続く場合もある。料金は受付時に固定され、長い待機になっても追加請求されない。
客室
客室には時計がなく、窓の外に同じ風景が繰り返し現れる。枕元には三枚の札が置かれている。
- 青札:起こしてほしい位相を指定する。
- 灰札:夢を記録せず眠る。
- 白札:同じ行き先の旅人との相部屋を許可する。
長期滞在者は記憶の時系列が乱れやすいため、宿帳を扱う薄明圏アーカイブ_渡り書記組合が毎朝、前日の出来事を一枚の紙にまとめて渡す。
共用食堂
食堂では、どの世界線の客にも「懐かしいが名前を思い出せない味」に感じられる薄いスープが出される。材料は薄明圏アーカイブ_浮標市場から届く灰青藻と保存野菜で、記憶に直接作用する成分は含まれていない。
禁止事項
客は出発を告げる鐘が鳴る前に荷造りを完了してはならない。早すぎる準備は部屋を「すでに空いた場所」と誤認させ、別位相の客を呼び込むことがあるためである。
物語の種
潮待ち宿は、目的地の違う人物が限られた時間だけ共同生活を送る舞台になる。出発の鐘が誰にだけ聞こえたのかを軸に、別れ、選択、記憶のずれを描ける。
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