帰ろう坂道
実家へ続く坂道には、 途中で必ず立ち止まってしまうポイントがある。
子どものころは、ただ急だったから。 大人になってからは、 謝りたいことを思い出す場所になった。
今年の盆、 ぼくは土産の袋を持ったまま、また立ち止まった。
坂の下で、近所の子どもたちが花火をしている。 失敗しても笑って、 何度でも火をつけ直していた。
その光を見ていたら、 「うまく言えない」ことに 勝手に期限をつけていた自分が急に恥ずかしくなる。
玄関を開けると、 母は台所から顔だけ出して言った。
おかえり。遅かったね。
それだけで、 何年分かの言いそびれた言葉が、 胸の中でゆっくりほどけていった。
作品概要と背景
藤井風の楽曲「帰ろう」の持つ世界観に着想を得て創作された短編文学シリーズの一編。
- 舞台設定: 茜色に染まる長い坂道と、その麓に広がる静かな街並み。
- テーマ: 執着を手放し、穏やかに自分の居場所へと帰っていく人々の心情が繊細に描かれる。
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