交差創作_紙飛行機市役所とBOOK OF OZAKI
紙飛行機市役所では、提出書類を紙飛行機にして窓口へ飛ばす。 失敗しても大丈夫。飛距離より、願いの角度が重視されるからだ。
ある雨の日、受付台にBOOK OF OZAKI_地下録音編の複製が置かれた。 そこには尾崎継承機関アーカイブの刻印があり、注意書きにはこうある。
「本日より“音の相続届”の受付を開始します。」
申請者は、亡くした言葉をひとつ記入し、 代わりに残したい音を選ぶ。 レコードの針音、改札のベル、深夜のシャッター音、 あるいは終電前スタジオで録られた、かつての継承者たちの未発表の吐息。
審査官は尾崎継承機関アーカイブから派遣された司書で、 紙飛行機が着地した場所に応じて、相続の優先順位を判定する。 窓際(光の当たる場所)なら「即時公開可」、 時計の下(時の止まる場所)なら「永久保留」、 天井の梁(視線の届かない場所)に乗ったものは「次世代の継承者へ委任」だ。
ぼくの届出は、まっすぐ飛んで、 市役所の壁に飾られた、灰野レンがかつて使っていたという古いギターケースの上に止まった。 司書は少し目を細めて、判を押す。
「区分:正典(カノン)継承予定。備考:匿名ギタリスト協会へ技術照会。相続人:春崎ルイおよびその観測者。」
帰るころには雨が止み、 庁舎の前には色とりどりの紙飛行機が積もっていた。 どれも濡れて重たくなっているのに、 なぜか藤井風の歌がどこからか聞こえてくるような、 次の風で、もう一度空高く飛べそうに見えた。
音を継ぐことは、命を繋ぐことに似ている。 市役所の屋根からは、今も一機の紙飛行機が、 反響区の夜明けを目指して飛び立っていった。